March.'10
環境や歴史背景を色濃く反映したルーマニアの教会は、地域によって様々な様式です。
吸血鬼ドラキュラのモデルとして有名なワラキア公(ヴラッド・ツェペシュ)が統治したトランシルヴァニア地方は、中世、周辺民族との諍いが絶えず、中でもオスマントルコの度重なる侵略から町を守るため、教会を中心とした要塞が形成されていきました。
17世紀、600ヶ所に達した要塞教会の約半数が現在も残っており、うち7ヶ所が「トランシルヴァニア地方の要塞聖堂のある村落群」として世界遺産に登録されています。
ヴラッド・ツェペシュの生家があるシギショアラも、世界遺産のひとつ。
12世紀頃入植してきたドイツ人たちによって整備された中世ドイツの典型的な建築様式や要塞都市の街並みは、共産主義政権下も損なわれることなく、中世の城塞都市の様子を今に伝えます。
のどかな農地と牧草地が広がるマラムレシュでは、中世より脈々と受け継がれた暮らしが根を下ろしています。
近年観光地として注目を集めていることもあり、村人が積極的に民族伝統の継承を行っているため、通りで鮮やかな民族衣装を目にすることもしばしば。まるで村自体が博物館のようです。
この地域の教会はルーマニア・ゴシックと呼ばれる独特の建築様式をもつ木造建築で、代表的な8つが「マラムレシュの木造聖堂群」として世界遺産に登録されています。
地域、建造年代によって造形は異なるものの、尖った高い屋根が印象的な鐘楼は共通のシンボル。
ルーマニア山岳地帯の深い森と豊かな草原によく馴染み、まるでおとぎの国に迷い込んだようです。
教会の資材に多用されているモミの木は、マラムレシュ地方に暮らす人々にとって特別な木。
壁を彩るモチーフとして、また建造物の装飾として様々なシーンで目にすることでしょう。
それは墓標も例外ではありません。
故人の生前の暮らしぶりをカラフルな絵や文字で著わした「陽気な墓」も必見です。
マラムレシュの東に位置するブコヴィナ地方の見所は、内外の壁が壁画で埋め尽くされた教会と修道院です。
中でも世界遺産「北部モルダヴィアの壁画教会群」に数えられるヴォロネツ修道院、モルドヴィツァ修道院の壁画は保存状態もよく圧巻です。
鮮やかな配色の壁画から受ける賑やかな印象とは裏腹に、度重なる周辺民族の襲撃に疲弊した人々の心の拠りどころであった教会に描かれたのは、キリスト教縁の物語とトルコ軍による侵略の歴史です。
同じく世界遺産に登録されているホレズ修道院も、繊細な彫刻と美しい壁画が残されています。